2016年1月18日月曜日

「ざわざわ~こども文学の実験」No.2  発売しました!


私ども草創の会は、児童文学の創作・詩・童謡・評論の書き手50名前後にて構成され、このたび児童文学雑誌「ざわざわ~こども文学の実験」(編集企画 内田麟太郎 菊永謙 宮川 健郎 最上一平 矢崎節夫)を創刊し、いよいよ2号目の発売です。ぜひご購読をお願いいたします。
 
            No.2  特集 武鹿悦子の世界 
武鹿悦子アルバム  インタビュー対談  一番自分らしい生き方だったと……武鹿悦子×聴き手 矢崎節夫
武鹿悦子アンソロジー   童謡篇(矢崎節夫・選)    少年詩篇(菊永謙・選)
武鹿悦子詩人論  吉田定一 畑中圭一 菊永謙 奥山恵 足立悦男 鶴田清司 児玉忠 千早陽生 ほか
エッセイ  新川和江 赤岡江里子 あまんきみこ こやま峰子 上野与志 後路好章 ほか  
年譜(菊永謙)

創作 岡田淳、最上一平、千田文子/エッセイ 宮川健郎、内田麟太郎、志津谷元子、海沼松世、小林雅子、山中利子/童謡・詩 西村祐見子、二宮龍也、林木林ほか 

A5判 368頁 定価:本体1200円+税 発売 四季の森社

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※定期購読(第2期2号~4号まで)または同一号3冊以上のお買い求めについては定価:本体1200円+税のところ特価:本体1000円+税(送料無料)にいたします。1~2冊の場合は定価+送料実費。お申し込み内容、お名前、送り先など必要事項をご記入の上、メールまたはFAXで草創の会事務局または四季の森社までお申し込み下さい。

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詳細目次
 


ざわざわ 2

口上(内田麟太郎)   Night and Day for children ( 絵/鈴木武志)  4~5  

リレーエッセイ《子どもたちの現在2》 私の息子の現在 小泉周二 6

 

特集 武鹿悦子の世界

 

武鹿悦子アルバム 9 

インタビュー対談(記録・編集いとうゆうこ)

 一番自分らしい生き方だったと……

  武鹿悦子×聴き手 矢崎節夫 18

武鹿悦子アンソロジー   
  童謡篇(矢崎節夫・選)  56
  少年詩篇(菊永謙・選)  66

武鹿悦子詩人論 その青春の日々―美しいメランコリックな想いを秘めた詩の花束 吉田定一 74

武鹿悦子論 ―童謡史上の位置づけを試みながら― 畑中圭一 91

武鹿悦子さんの童謡 織江りょう 96

武鹿悦子の詩の世界 ―おはなしが はじまるように― 小林雅子 103

いのちと向き合う詩精神 菊永謙 110

本当は怖い……? ―武鹿悦子の散文作品― 奥山恵 116

話者と声喩……「はくさい ぎしぎし」 足立悦男 122

詩の創作指導における留意点―「方法」のまえに「実感」を大切にしたい 鶴田清司 126

オノマトペの教材性―武鹿悦子作品の魅了― 児玉忠 132

 「おかあさんのいのり」によせて 千早陽生 148

 

 エッセイ―新川和江 157

  赤岡江里子 160

  あまんきみこ 163

  こやま峰子 167

  下田喜久美 170

 西村祐見子 175

  はたちよしこ 177

  おがたえつこ 179

  上野与志 182

  後路好章 185

  宇部京子 188

 いとうゆうこ 191

  海沼松世 194

 

  武鹿悦子年譜(菊永謙)  197

 

童謡 

おきたさん ねむいさん 矢崎節夫

ぴったり パズル 西村祐見子

睡蓮 大竹典子

海とわたし 宇部京子

はくしょん しょん 織江りょう

とおとジュウ 江森葉子

かあさんリモコン おがたえつこ

さんぽ数え歌 山中利子

 

詩作品 

内田麟太郎 うし

池田もと子 かげ

小泉周二 夢

秋月夕香 深夜・水たまりの月

津川みゆき 缶蹴り・宇宙ブランコ

さきあけみ まもられて

加茂照子 デージー

みもざすみれ のうさぎさん・母の日に

久保恵子 居心地のいい場所

石井英行 あかちゃんいるよ

村瀬保子 みずたまりひとつ・ほか

清水ひさし 夜干しイカ

井上良子 ロンドン

小野 浩 緑の季節

吉田享子 森の人(オランウータン)

あきもとさとみ かけおち

二宮龍也 ぼく(ころ)のお出かけ

名嘉実貴 耳

かわさき洋子 ぬいぐるみのいぬ・ほか

高杉澄江 びわの実

岩本良子 隣人

楠田伸彦 記憶(俳句)

野田沙織 しんあいなるキャプテン・ほか

藤真知子 儲かりまっか?・たからくじ

下田喜久美 花あぶ・今日のこころ

岩佐敏子 おつかい・漢字の練習・玉入れ

さとうなおこ せみ

山本なおこ 真っ正直にすわってみる

吉田定一 耳

大澤桃代 うそんこ

林 木林 だいっきら

入江隆司 風が吹く その日はわれらがもの

江口あけみ 青空

 

 

 創作

夢のなかでつかまえて 岡田 淳(絵・池田朋之)  216

子ねこの赤いランドセル 千田文子(絵・德升寛子)  251

連作「あらわれしもの」② あらわれしもの・かひなた 最上一平・作(村山里野・絵) 348

 

 

エッセイ

「読み語り」をはじめて 山中利子 227

 詩はどこにあるか1 

「詩」は、どこにあるか 宮川健郎 296

  うそっこの力技 内田麟太郎 300

  魅せられた一冊 ― ポール・ギャリコ作/矢川澄子訳『さすらいのジェニー』 志津谷元子 302

  詩集再読・三読 第二回 

寺山修司未発表詩集『秋たちぬ』を読む 海沼松世 304

ことば荘便り2 虫めづる姫君たち

小林 雅子 308

マンガ

僕は自分じゃ向こう側のスイッチを押すことのできないんだ 落合次郎 260

 

ある日のざわざわ 361

    ざわざわ投稿作品・選評 362

    執筆者紹介/後記 363

 

ざわざわロゴデザイン 内田麟太郎/表紙絵 高畠純/表紙・扉制作 廣田稔明(原案:秋元克士) 本文さしえ(池田朋之、德升寛子、村山里野) 対談写真(おがたえつこ、織江りょう)


ざわざわ─こども文学の実験  第2号
2016年1月15日 発行
 編集 草創の会
     編集委員会
      いとうゆうこ
      内田麟太郎
      織江りょう
      海沼松世
      菊永 謙
      小林雅子
      宮川健郎
      最上一平
      矢崎節夫
 

新井 和詩集 『木苺探しに』 


家族への思いが溢れる ふるさとのものがたり 

   新井 和詩集 『木苺探しに』 
A5判上製 本文128頁   定価:本体1200円+税 
2015年 12月25日発行
  著者 新井和は埼玉生まれ。詩集に『おばあちゃんの手紙』。やわらかな社会批評や時代への風刺を含む独自な詩作を展開。本書は第二詩集となる。               ISBN 978-4-905036-11-1C0092
ご注文は直接、四季の森社までメール、FAXまたはお電話でお願いいたします。

 ※人生のはるかな夢路 いくつもの記憶をたぐりよせ 生きることの真実と哀愁をゆるやかに奏でる詩編たち(菊永謙)


《内容紹介》


  ひいおばあちゃん

 

おばさんから

ひいおばあちゃんが

もうながくはないだろう と

知らせてきた

 

お母さんが

ひいおばあちゃんのだいすきな

まぐろのおさしみをもって行った

 

おさしみを小さくきって

ねているひいおばあちゃんの口へ

もっていくと

ほほえんで

顔の上で手をふった

 

少しでも というと

小さく口をあけた

おさしみをいれてあげると

口をもぐもぐさせながら

ぼくの顔をみて枕をたたいた

おばさんが

枕の下からがまぐちを出して

千円くれた

 

ひいおばあちゃんは

あんしんしたように目をつむった

のどがむぐっとうごいた

 

 

  おキミさん

 

山かげの雪も解けて 鎮守様の祭りがくるとおキミさんがくる 麦畑の道に ドテラを着て 菰を背負ったおキミさんの姿が見える 鎮守様の前を通って 私の家に突き当たるまでに数軒の家がある 一軒一軒それぞれにまわってくるので 私の家につくのは三十分ぐらいあとである

 

おキミさんは 両手で耳をふさいで 怒ったような顔をしていた

――キミちゃん よくきたない――

と母が言うと 恐い顔が にこっと笑った

蓬餅をあげると 嬉しそうに帰っていった

 

ある雨の日 お裁縫をしている母に聞いた

――おキミさんは どうして耳をふさいで

 いるの――

母はお針の手を止めて ため息をついた

 

――おキミさんはな お大尽のひとり娘でな 荷車三台もの大荷物をもって さるお大尽にお嫁いりしたんだと そしてな 赤ん坊が生まれてすぐ死んでしまったんだと おキミさんは悲しんでなあ 気が狂ってしまったんだと それで実家に帰されたんだと いまでもな 赤ん坊の泣き声が聞こえるんだと だから ああして耳をふさいでいるんだと――

 

鎮守様の祭りが来て暖かくなると 家をはなれ 夜は 橋の下や 神社の縁の下に泊まって 物を貰って歩くおキミさんのくらしがはじまる カラスウリの赤い実が 野山をかざるまでつづくのである

 

 

つゆ草の花

 

八月に入って間もなくのころだった。

自転車で通勤の途中 線路ぎわの道にさしかかると有刺鉄線のフェンスの中につゆ草の花をみたような気がした。勤務先は直ぐ近くだが 止まって確かめるほどの余裕はなかった。帰りには花はしぼんでしまったのか跡形もなかった。

 

翌朝その場所を通り過ぎるとき スピードを落として目を凝らして見た。草むらの中に ちいさなつゆ草の花が一面に咲いていた。

「うれしい」

思わず声をあげた。

空を仰ぐと つゆ草の花で染めたような空が広がっていた。

 

幼い日 魚つりをする兄の近くでつゆ草の花を摘んだ。

「かず ごはんよ」

母が呼ぶまで。

摘んでも摘んでも翌朝はいっぱい咲いた。

夏の朝の日課のようなものだった。

 

その母はもういない。兄は 話すことも 歩くことも できなくなって 老人ホームにいる。

 

十月はじめ半年ぶりに兄を訪ねた。

車椅子のかたまりのなかに兄を探したが見あたらず 部屋にはいるとベッドに寝ていた。呼んでも 頬をさわっても目を開けなかった。頬はこけ 面長な顔がいっそう長く見えた。

 

朝晩急に寒さを感じるようになった十月のなかごろ つゆ草の花が見られなくなった。兄の命のようで淋しかった。

 

十月二十九日は 母の命日だった。その日が近づくにつれ 私は 母が兄を迎えに来てくれるような気がしてきた。兄もそのほうが幸せなのだ。そしてひたすら二十九日を待った。

 

二十九日のまえ 三日ばかり 汗ばむほどの暑さがもどり そのせいか 三十日には 小さいつゆ草の花が ぽつり ぽつりと咲いていた。昼ごろなのにしぼんでいない。不思議な気持ちで見つめていると

「もう少し めんどうみてやって」

母の声が聞こえたような気がした。

 

 

  つくし

 

十五歳の春

お別れにみんなですわった

利根川の土手

 

終戦から五年

つぎのあたった国民服

色あせたセーラー服

 

向かう進路に笑顔はなく

不安をかくせない顔

 

あれから六十年

わたしは毎年

三月には土手にのぼった

ふるさとに残った者のつとめのように

 

今年も一人そこに立つ

つくしが勢ぞろいして待っていた