2022年6月24日金曜日

現代こども詩文庫 4 田代しゅうじ詩集


 現代こども詩文庫 4

 田代しゅうじ詩集

2022年7月15日 発売

企画・編集 菊永 謙 

カバー絵 大井さちこ 

発行所 四季の森社 

ISBN978-4-905036-32-6  C0392

定価 本体1200円 税120 合計1320円

田代しゅうじの既刊詩集などからの選集と創作民話、近年のエッセイを収録。作品論詩人論解説に小林雅子、三谷恵子、菊永 謙。


著者 田代しゅうじ


1937年 鹿児島県薩摩川内市に生れる。

1978年 児童文化の会(井野川潔、早船ちよ)「童

詩童謡研究会」に入会する。

1982年 「少年と海」「少年と猫」の2作品が「子

ども世界」(児童文化の会)童詩童謡賞を受賞する。

1985年 詩集「少年と海」にて第16回埼玉文芸賞

児童文学部門賞を受賞する。

2006年 詩集「野にある神様」てらいんくより出版。

2017年 詩集「ともだちいっぱい」を四季の森社

より出版。第22回三越左千夫少年詩賞を受賞する。

日本児童文学者協会会員、詩誌「みみずく」同人。草

創の会「ざわざわ」会員。茨城県取手市在住。




田代しゅうじ詩集から


 方言


みんな方言でかたろう

ふるさとの人ばっかり

一年に一度のふるさと会

おもいきり方言でかたりもそ

よかが

よかが

こげんうれしこたなか

はんも

おいも

よかがよかが

みんなないでんかたらんけ

よかが

よかが

やまいもをほらんなよか

よかが

よかが

みんなかごしまじゃ

みんなよかひとじゃ

よかが

よかが

他人のわるぐちやいわんほうがよか

他人のこつもいわんことじゃ

よかが

よかが

方言なよか

方言なよか

           ないでん=何でも

           やまいもをほらんな=酒を飲んでくだをまくこと

           いわん=云わないこと




西郷どんがうさっがいきやった


こんばばが、とうぐらいのころじゃった。

ちょうど、といいれも、おわつたころ

外のえんがわに、腰かけて、

おとっちゃんとかたいかた

からいもが、ゆであがつとを

待つちょらいた

「おいどんな、えんがわで、わらぞいを

つくちょった」

西郷どんが、じっと、みちょらいたが

「そげん、ちんかてで、みごちぞいが

 でくんね、おいどんに、いっそくうってくれ、」

西郷どんな、さいふの中らぜにをだしやった

「おいどんな、うれしゅして、ぜんないらんち、ゆうたが、西郷どんが

ふとか手で

とっちょけ、とっちょけち、ゆわいたでもろた、どっさいじゃった」

西郷どんな太か人じゃった

「ばあちゃん、ほんのこで、西郷どんじゃっど、西郷どんのみたと、ほ

んのこて」

「こん白髪ばばが、嘘をいゆもんか

おいどんが、編んだわらぞうりを

踏んで、庵の宇都山に、うさぎがいにいきやった」

それを聞いた、少年は自分で見たように得意になった

明治二二年生まれの少年の祖父を生んだ人

少年のひいばあちゃん

その話を聞いたのは昭和二二年

少年は十歳

ひいばあさんは八二歳か八三歳

西郷どんな太か人じゃった

昔の家は戸口のうつくわれかかった引き戸を開けて

「だいか、おいけ、おったけ」

暗い家の中を、じろりとみまわし

「おいどんな、西郷じゃ、こんからいもをゆでて、くれんけ」

西郷どんな、持って来た袋の中からからいも、どさち、だしやった

からいもを、ゆでてやると

「半分でよか、こんからいもはおいどんと、犬のめしじゃ」

半分はみんなで食べろといって残りの半分を大きな袋にいれて背中にせ

おおうと

「おおきにね、あいがとうございもした」

犬を連れて、庵の宇都山にうさぎがりにのぼって、いきやった

ひいばあさんは

「そげん、えらか人やったち

おいどんなしたんにゃった」

あの高い縁側に、ちょこんと腰かけてからいものゆであがったとをまっ

ちょいやった

こけ、二度ばっかりきやったね

ひいばあさんは、竹の皮で草履をつくっていた

長生きしたひいばあさんの草履をふんであるくと、長生きするちゅう

て、みんな

こうてくれた

草履は一〇足ずつ丸い輪にして、天井につるしてあった

こげな、昔のかぞえかたを教えてくれた いいちく、でえちく、ちくまが、

こんぶ

それ、また、こきゅ、たろう、じいんがのき

これで一〇じゃ

少年は

ひいばあさんが、いつまでもいきていてほしいと思った

「おいげえん、ばあさんな、西郷どんのしっちょらっど」

と、大きな声で自慢のすいごたった

あのばあさんは、今、庵の宇都山のいりぐちにある、ちいんかはかのな

かにねむって、おいやっど。

俗名 田代イロ

そして、あの少年は、今頃

風になって、故郷のやまを

思いきりかけまわっています

きっと


  方言の説明

①うさっがいきやった=うさぎ狩りにきました

②といいれも=とり入れも

③かたいかた=語り合っていた

④からいもが=さつまいもが

⑤ゆであがっと=ゆであがると

⑥わらぞい=わらぞうり

⑦そげん=そんなに

⑧ちんかてで=ちいさなてで

⑨みごちぞいが=みごとなぞうりが

⑩でくんね=できるね

⑪ぜんないらん=お金はいらない

⑫とっちょけ=とっておけ

⑬ゆわいたで=云われたので

⑭どっさいじゃった=たくさんだった

⑮ほんのこて=ほんとうに