2021年2月26日金曜日

現代こども詩文庫 1  山中利子詩集

 

現代こども詩文庫 菊永謙責任編集 

第一回配本 現代こども詩文庫 1  山中利子詩集

発行日 2021年2月25日 初版第一刷発行 定価本体1200+

著者 山中利子 企画・編集 菊永 謙 カバー絵 大井さちこ

 ISBN978-4-905036-24-1 C0392


 現代こども詩文庫は、子どもの読者から広く大人まで楽しめる詩と詩人の全体像を明らかにし、広く世に問うものである。基本的には詩人の詩・童謡の自選集として児童文学評論家菊永謙が企画、編集し、解説を付したものである。

 すぐれた詩篇の数々、童話、そしてエッセイ・評論等を収録し、さらに詩人について他者からの重要な批評の再録、オリジナルの解説を収載し、詩人の裡に輝く児童文学の姿を浮き彫りにしたい。

 現代こども詩文庫 1  山中利子詩集 (詩人論作品論 森くま堂、菊永謙)

著者 山中利子(やまなか としこ)

一九四二年一月二十一日 茨城県土浦市に生まれる。

少女時代、「いづみ」「文芸首都」などに詩を投稿。国立療養所東京病院付属高等看護学校卒業後看護師として働く。

一九九八年、詩集『だあれもいない日―わたしの おじいちゃん おばあちゃん―』(リーブル)で第三回三越左千夫賞受賞。二〇〇八年、詩集『遠くて近いものたち』(てらいんく)で第27回新美南吉児童文学賞受賞。日本児童文学者協会会員。

著書に『早春の土手』、『空にかいた詩』、『まくらのひみつ』、『こころころころ』、エッセイ集『かわいや風の子―重症心身障害児訪問看護便り―』、童謡詩集『ガードレールの歌』ほか多数。


2020年12月7日月曜日

『うたうかたつむり』詩:野田沙織  絵:浜田洋子

 


『うたうかたつむり』詩:野田沙織  絵:浜田洋子

2020 12 25 日 発行 四季の森社 定価:本体1200円+税

ISBN978-4-905036-25-8 C0092

 

著者略歴 野田沙織(のださおり)

一九七九年三月二日、東京生まれ。福岡で育つ。九州大学文学部卒業。在学中に「詩の少年・詩の少女」入賞。卒業後は図書館司書として働く。同人誌「マグノリアの木」「みみずく」に参加。児童文学誌「ネバーランド」「ざわざわ」「少年詩の学校」などにも詩やエッセイを発表。二〇二〇年七月七日、病気にて急逝。享年四十一歳。

 

本集から

 

 

 かたつむり

 

かしゃ

足の下で こなごなになった

それは きのうここにいた

かたつむり

だったかもしれない

 

そんなにも

たよりない殻で

きっぱりと

身をまもっていたのに

ごめんなさい

 

かしゃ

とりかえしのつかない

しずかな

音だった

 

 

らったった

 

 

アライグマも

ワライグマも

ワルイクマも

 

あつまった

わになった

らったった

 

 

やくそく

 

 

ならない口笛

ふかふか吹いて

少しだけ 空を向いて

自転車に乗ってたら

 

  たぶん

  わたし

 

もしかして

出会う前かもしれなくて

じゃなきゃ もう一度

生まれた後かもしれないけど

 

口笛といっしょに

うたってくれたら

 

  振り向くよ

  にっかり

 

 

 たまご

 

 

うっかり

だきとめてしまった

 

あんまり しずかに

あんまり しぜんに

あなたは

あずけていったから

 

まだ かえらないたまごだ と

おもったものは

だんだん あたたかく

だんだん やわらかく

ふくらんで

 

あなたが

むかえにこないまま

うでのなかで たまごが

かえったら

 

なにをたべる いきものの

わたしは

おかあさんになるんですか

 

ゆめか

くもか

わたがしくらいなら

つかまえてあげるつもりです

2020年9月4日金曜日

ざわざわ―こども文学の実験5

 


ざわざわ―こども文学の実験5

草創の会編 2020930日発行

ISBN978--905036-23-4 C0095 定価:本体1200円+税

表紙絵:大井さちこ

特集 「赤い鳥」創刊100年を越えて

 



目次

特集 「赤い鳥」創刊100年を越えて

 『赤い鳥』の童謡運動の今日的意義について 畑中圭一

 みやぎの『赤い鳥』『おてんとさん』と鈴木道太 宮川健郎

 『赤い鳥』を今につないで 藤田のぼる

 佐藤義美と『月の中』 矢崎節夫

 「この道」と白い時計台 内田麟太郎

 まど・みちおの詩の世界 尾上尚子

 『赤い鳥』出身の詩人 与田凖一と巽聖歌 吉田定一

 「赤い鳥」と小川未明 小川英晴

 「赤い鳥」を支えた二つの個性 小川英晴

 「赤い鳥」を支えた二つの個性 織江りょう

 詩人たちの横顔 菊永 謙

 記憶の中の清水たみ子さん 三谷恵子

 『赤い鳥』投稿詩人 真田亀久代 山本なおこ

 わかると 嬉しくて おがたえつこ

 光のみえる詩 藤 真知子

 唱歌、『赤い鳥』、思うこと 徳升寛子

 北の国の投稿詩人 和泉幸一郎 江森葉子

 清水たみ子の詩

 風とうさぎと貝がらと 小林雅子

 赤い実を食べた いとうゆうこ

 まど・みちおの完璧 大竹典子

 まど・みちおさんと

 周南市美術博物館 林 瀬那

 

童謡 

おがた えつこ あさ

関原斉子 はるの木

佐藤雅子 カナブン ブン

矢崎節夫 ぽちと ぼく

宇部京子 ぼくと月

織江 りょう とりになった ひ

西村裕見子 ちょっとだけ

大竹典子 だれもいない日

二宮龍也 涙を拾いにやってきた

吉田 定一 はえさん

 

詩作品Ⅰ 

野田沙織 はるのたより

吉田享子 しずく

さき あけみ ひみつ

藤 真知子 きみのなかには

たかはし けいこ 五月/帰り道

山本なおこ カマキリ

いとう ゆうこ よじのぼる

井上良子 ココよココよ

林 木林 ひとふわ

みもざ すみれ ツーン と

清水ひさし なぞなぞが苦手な人へのなぞなぞ詩/蚊取り線香/走り高跳び

 

詩作品Ⅱ 

松山真子 こがらしいちばん

江口あけみ 大雪注意報

久保恵子 霧の朝

名嘉実貴 しずくちゃん

岩佐敏子 「こんばんは」いろいろ

岩本良子 寒施行

三谷恵子 冬の使者

あきもと さとみ きめたの

山田よう ふりこゆらゆら


詩作品Ⅲ 

内田麟太郎 少年/わたしが

村瀬保子 てあて

はたち よしこ しーん/夏

田代しゅうじ 路地裏

菊永 謙 夢のかけら

千田文子 かいつぶり

津川みゆき 風の後れ毛/やまゆり

小泉周二 月に向かって/さりげなく

谷萩弘人 蝉

下田喜久美 ストック

小野 浩 点滴ポール

まえだ としえ ゆうぐれ

楠田伸彦 太 陽(俳句)

山中利子 ある写真

 

創作 オレたちの始業式 高橋秀雄

漫画 楽寛さん 徳升寛子

連作「あらわれしもの」⑤ あらわれしもの・四姉妹 最上一平・作(村山里野・絵)

エッセイ―〈歌のある風景〉 

童謡の宝庫、信州・松代 海沼松世

海辺の町の夭折の詩人 小川英子

おめでとうがいっぱい─三鷹のお誕生日会のこと─広松由希子

三木卓の詩を読む─「行進」「系図」を中心に─ 宮野マチ

ことば荘便り5 ガマ吉の春 小林雅子

ざわざわ投稿作品・選評

執筆者紹介/編集後記

 

2020年5月3日日曜日

松山真子『だれも知らない葉の下のこと』






詩集 だれも知らない葉の下のこと

2020 年5 月5 日 発行

著 者 松山真子
 画  こがしわかおり
A5変形 上製本 84ページ 定価:本体1200円+税

ISBN978-4-905036-22-7 C0092



著者 松山真子

一九四五年生まれ。信州中野市で育つ。詩集『こんぺいとう』星の環会『詩集﹁さ

よならさんかく・またきてしかく』北信エルシーネット社など。日本児童文学者協会会員。



画家 こがしわ かおり 

一九六八年生まれ。埼玉県育ち。作絵に『おうちずきん』(文研出版)など。絵に『料理しなんしょ』(偕成社)『ダジャレーヌちゃん世界のたび』(303BOOKS)、詩集『ぼくたちはなく』(PHP研究所)『魔女のレッスンはじめます』(出版ワークス)など。

HP http://www.pagoda-house.net/



帯より

だれも知らない葉の下には、だれかがいるのです。そっと さがしてみたくなります。

松山さんの詩には、人びとの暮らしや 動物たちの不思議なつぶやきの楽しさがあり 作者の心やさしさが広がっていきます。    はたちよしこ



詩集より



 霧の中   松山真子



草やぶを抜けると

そこは一面の乳白色の霧の中



家に帰る道が見つからない

さっきまであったものが

すっかり消えている



大きな魚が泳いでくる

海藻が揺れている

海の中の乳白色



わたしはどこ

わたしの家はどこ



とおいところ



海の底にはりついている

小さな魚が



ずっとずっと昔の

わたしだと言いはっている





かわせみ   松山真子



ほんとうは

きれいな山の清流が好きだった

ほんとうは

だれもいない谷川で子育てをしたかった

ほんとうは輝く青色とオレンジ色の羽を

だれにも見られたくなかった



でも

いつから好きになってしまったのだろう

オタマジャクシがいっぱいいる

公園の池を



子どもたちの口に小魚を入れながら

ほんとうの自分はどっちなんだろう 



考えている





せ み   松山真子



とめないで

きょうは ただ

おもいっきり なきたいんだ





ごきぶり   松山真子



ちょっとちょっと

ほんきでやるきですかい

そのふるえるスリッパで





ばあちゃんに   松山真子



座るとすぐにねむってしまう

そんなふしぎな椅子があると

ばあちゃんが話してくれた

それを

ずっと さがしているんだって



このごろのばあちゃんは

夜ねむれない

風が雨戸をゆらしても

犬のタロウが鳴いても

すぐに起きてしまうのだと



幼稚園のとき

いつも送り迎えしてくれたばあちゃん

公園の回転ジャングルするときも

いつもだまって待っていてくれた



座るとすぐにねむってしまう椅子は

どこにあるのだろう



さがしてきて

ばあちゃんに座らせてあげたい


2020年4月13日月曜日

『詩集たたかいごっこ』小泉周二 

『詩集たたかいごっこ』小泉周二  2020 4 15 日発売

A5変形 上製本 136ページ 定価:本体1500円+税
ISBN978-4-905036-21-0 C0092

父となった小泉周二の子育て詩集

著者小泉周二
一九五〇年、茨城県那珂湊市生まれ。十五歳の時に先天性進行性の難病「網膜色素変性症」と診断され、将来は失明の可能性が高いということを知らされる。以来、生きていく支えとして詩を書き続ける。茨城大学教育学部卒。
詩「カンソイモ」で日本児童文学新人賞、詩「あとえ」で童謡ダイエー賞、詩「いもむし」で毎日童謡賞、詩集『太陽へ』で日本童謡賞、三越佐千夫少年詩賞。著書 詩集『放課後』(一九八六年)、『こもりうた』、『太陽へ』(一九九七年)、『現代児童文学詩人文庫9小泉周二詩集』(二〇〇四年)、『小さな人よ』(二〇一〇年)、その他。

帯より
父親と子どもというのはなんだか本当っぽくない。まわりがそう思うだけでなく、
自分でもなんだかそんな気がするのだ。ただ、正直なところ、だからこそ「がんばってる
な、おれ」と思うことができる。それは男の甘えかもしれないが、やはり自分を多少はほ
めてあげないと、なかなかやっていけないのだ。(藤田のぼる氏の解説より)


詩集より

ファンタジー

パパ かきごおり つくって
と言うので
はい いちごとメロンとレモン どれがいいと聞くと
うーん あかいの
と言う

はい いちごですね
カシャカシャカシャカシャ シロップ ジャー
はい どうぞ
手の平をおわんにして差し出すと
片手でつかんで自分の口に持っていく

おいしい
と聞くと
あまーい
と答える

パパ パン屋さんに行ってくまさんのパン買ってくるから待って
てね
と部屋を出ていく
はい 気をつけてね
と送り出す

ドンドンドンと足音が遠ざかり
ドンドンドンと足音が近づいてくる

ただいまー
お帰り 早かったね
と言うと
パン屋さんおやすみでくまさんのパン買えなかったの
と言う
うーん そうだったのかあ


許してくれない

きのうもおとといも聞いたのに
美空はまたきょうも聞いてくる

パパ 黄色いチューリップ どうしたの

パパがね まちがえてちらしちゃったんだよ

伸びた雑草を抜いたときに
いっしょに花びらをむしってしまったらしいのだ

毎日美空は同じことを聞いてきて
毎日僕は同じように答える

美空は黄色いチューリップが好きだったのだ


海の四季

さよさよ さよさよ さよさよさ
静かに寝息を立てている
とろんとした春の海

ろろろん ろろろん ろろろんろ
でっかい声で歌ってる
ぱっとした夏の海

さささあ さささあ さささあさ
思い出話が続いてる
しんとした秋の海

ごごごお ごごごお ごごごおご
誰も来るなと叫んでる
どんとした冬の海




2020年2月7日金曜日

まえだとしえ『天気予報』


まえだとしえ 『天気予報』 第三詩集

2020125日発行 四季の森社 定価1200円+税

A5判変形 上製本 96ページ 絵 まえだとしえ

 ISBN978-4-905036-20-3 C0092




母や父、遠い日の友

故郷への限りない思い出を通して

<無償のやさしさ>に出会う詩篇たち

菊永謙(詩人、児童文学評論家)




まえだとしえ

加賀白山山麓の小集落、東二口(ひがしふたくち)

生まれ。鶴来(つるぎ)高校卒。金沢大学医学部付

属看護学校卒。同付属病院勤務。金沢の詩誌「笛」

同人となる。結婚後、上京。子育ての時期、児童文

学者・岩崎京子先生の文庫に親子でお世話になる。

児童文学者協会の通信講座にて川村たかし先生の指

導を受ける。同人誌「アルゴル」「森」「ひなつぼし」

「木曜童話会」「虹」「少年詩の学校」などに詩、エッ

セイ、童話を発表。詩集『た・か・ら・も・の』(リー

ブル 2007年)。日本児童文学者協会会員。





詩集より









大きなおおきなふしぎは

山のくぼみから わきでる水のこと



雨が何日もふっていないのに

水はとぎれることなくあふれ

幼いわたしは しゃがんで

ふたつの手のひらですくって

なんども 口にはこんだ



かすかにあまくて おいしい

清らかな水を生む山並みは

遠い遠いふるさと



都会のざわめきと

孤独のよせあつまりの中

さまよう心が

本当の水を求めています



とぎれることのない 深い山並みの

わき水を 求めています





ざくろの花のさくころ



ひとむかしも ふたむかしも

もっともっとむかし

ゆりおばあちゃんのほほが

ふっくらと うすべにいろだったころ

いくどもいくども あめのなかで

みつめたはながありました



ゆりおばあちゃんは いま

ろうじんほーむの なかにわで

あめのなかに ひとりたたずみ

はつこいのひとと おはなしをしています



むすめのころ

きはずかしくて つげられなかったことも

すらすら いえます



少女にもどった ゆりおばあちゃんの目には

つややかなみどりのなかでくっきりとさく

ざくろのはなしかみえません

ゆりおばあちゃんのみみには

はつこいのひとのこえしか きこえません



あめのなか ことしも

朱色のはながさいています









心もとなくて 目をとじる

見えない糸を たぐっていくと

はるか向こうに

ほほえんでいる 母がいる



母のうしろは

海のような

土のぬくもりのような

月影のような

ひなたのような―



 なに なーんもしんぱいいらんけんねえ

 ひとっちゅうもんは 弱いようで強い

 ひとそれぞれ 時代時代 一本道を

 のぼったりくだったりするもんよ

 こころんなかの おくのおくのかすかな

 のぞみを こんきよう じぶんのてで

 まもりそだてながらな



―はいっ ありがとう! かあさん

私の中の 少女の声が聞こえてきます


2020年1月5日日曜日

まえだとしえ『かくれんぼ』


まえだとしえ 『かくれんぼ』

20191225日発行 四季の森社 定価1200円+税

A5判変形 上製本 112ページ 絵 大井さちこ



やさしく温かな気持ちがいっぱいあふれている

まえだとしえさんの詩集は私の心の栄養食です。

岩崎京子(児童文学作家)



まえだとしえ

加賀白山山麓の小集落、東二口(ひがしふたくち)

生まれ。鶴来(つるぎ)高校卒。金沢大学医学部付

属看護学校卒。同付属病院勤務。金沢の詩誌「笛」

同人となる。結婚後、上京。子育ての時期、児童文

学者・岩崎京子先生の文庫に親子でお世話になる。

児童文学者協会の通信講座にて川村たかし先生の指

導を受ける。同人誌「アルゴル」「森」「ひなつぼし」

「木曜童話会」「虹」「少年詩の学校」などに詩、エッ

セイ、童話を発表。詩集『た・か・ら・も・の』(リー

ブル 2007年)。日本児童文学者協会会員。





詩集より



ママの七変化   まえだとしえ



おっかないママ

あかおにのようなママ

ぼくがおいたをしたときのママ



おんなのこのようなママ

ガールフレンドのようなママ

いっしょにドレミのうたをうたうママ



やさしいママ

かんごしさんのようなママ

びょうきのぼくをだっこするママ



おとこのこのようなママ

ジーパンのにあうママ

ぼくとはらっぱであそぶママ



きゅうしょくのおばさんのようなママ

コックさんのようなママ

ごちそうをつくるときのママ



パパにいってらっしゃい というママ

パパにおかえりなさい というママ

パパだけのおくさんのママ



だけど どのママも

みんなみんなぼくのママ

ぼくがおにいちゃんになっても

おとなになっても

ずっと

ずーっと ぼくのママ







さがしもの   まえだとしえ



おふろばで したぎをあらうこと

三さいのとき ははからおそわりました

はんかちーふのほしかた

ようちえんじだい ぱんぱん たたくのよって

ちひろせんせいにおそわりました

せんたくきのつかいかたも

いつのまにか おぼえました

ははのせたけも せんせいのせたけも

とっくにこしたいま

たいがいのことは

ひとりでかいけつできるのに

つかれ

よごれたこころがあらえません



とかいのちいさなそらのした

まふゆのゆうげしきに

ちょっぴりそまった こころをひきずり

こころのあらいかたをさがしながら

あるきつづけています







おおきに ありがとさん   まえだとしえ



―おじいちゃん さむくなってきたね

  はんてん どうぞ

―おお おおきに ありがとさん

えんがわで絵をかいている おじいちゃん

べレー帽が よくにあってる



―おじいちゃん あついお茶 どうぞ

―おおきに ありがとさん

  ほんに あんたは いい子じゃ

おじいちゃんは かぞえきれないほど

おおきに ありがとさん って言ってくれる

おじいちゃんの体の中には いったい

どれだけ おおきに ありがとさんが

入っているのかな?

聞くたびに 心がほっこりしてくる



夏の終わり おなかの手術のあと 突然

天国へ行ってしまった おじいちゃん

かきかけの絵をかかえ えんがわから

一番星に よびかけます

―おじいちゃーん

  いっぱいいっぱい おおきに

  ありがとさん







マムシ   まえだとしえ



草むらで カサッと小さな音がした

一瞬 チコの手にした棒の先が

マムシの頭を きっちり押さえた



夏休みの登校日 家への帰り道

あつい日差しの下

麦わら帽子をかぶったチコの頭の中では

となりのおばさんの言葉が

ぐるぐる まわっている



  (チコちゃんちの おかあちゃん、

   なくならはったおとうちゃんの分まで

   働かはるでなあ

   この暑さの中、あんな細ほそこい体で

   むりのしすぎやが

   まっ マムシ4 4 4 の焼いたのでも食べて

   二、三日 ゆっくりなさると

   じきに ようなりなさると思うが……)



チコの手は 一度だけ見たことのある

次吉おじさんの手さばきをまねて

みごとなスピードで皮をはぎ

まるで 手品師のように

棒切れに桜色のくねくねを巻きつけた



すぐそばの林道の上手では

竹筒の先から岩清水が流れ落ちている

チコは 冷たい水でゴシゴシ手を洗い

顔をザブザブ洗い 口をすすいだ

   (おかあちゃんをよろしくお願いします)

くねくねさんに 頭をさげてたのんだ



その晩 チコの家の大きないろりには

赤あかとした炭火があった

話を聞いた次吉おじさんが自分のマムシと

チコのくねくねさんを並べて焼いている

ミミズにしりごみするチコちゃんが……

  あのかいらしチコちゃんが……

  ようもまあ こんな立派なタイショウ4 4 4 4 4

  しとめたもんやなあ どっちにしても

  おかあちゃん 一気にようなりなさるわ

となりのおばさんの顔が

なみだでぐしゃぐしゃになっている



―ほんにのう チコっちゅう子うは

  思いもかけんことをする子じゃ

チコのおばあちゃんも さっきから

袖で涙をぬぐっている





そのころ

おかあさんも寝床で涙をぬぐっていた

チコは おかあさんの手をにぎったまま

えびの形にまるまって

とっくの昔に ねむりこんでいた

もとの 甘えんぼうにもどって

              *となりのおばさんがタイショウと

               呼んだのは マムシではなくてヘビのこと。