2023年7月2日日曜日

現代こども詩文庫 5 戸田たえ子詩集

 



現代こども詩文庫 5 戸田たえ子詩集

発行日 2023年6月25日

著者 戸田たえ子

企画・編集 菊永 謙 カバー絵 大井さちこ

四六判並製本文192ページ

発行所 四季の森社  定価1320円(本体1200円+税)

 ISBN978-4-905036-36-4 C0392


戸田たえ この既刊詩集、未刊作品からのアンソロジーに加えて特別に父藤原義衡の戦記『私のビルマ戦線』を抄録する。解説に畑島喜久生、はたちよしこ。菊永謙。


著者戸田たえこ略歴

一九四八年 愛媛県大三島町(現・今治市)に生れる。中学のころから詩を書き始め、児童文学誌「ぷりずむ」秦敬主宰の同人になる。一九八七年 父のビルマ戦記「私のビルマ戦線」を出版する。著書に詩集『しずかなる ながれ』(近代文藝社)、詩集『夕日は一つだけれど』、詩集『ききょうの花』。


『戸田たえ子詩集』から


  夕日は一つだけれど


山に のぼると

また

山が みえる


山って

いくつあるのだろう?


夕日が しずむ山は

一つだとおもっていた


ずっと

そうおもっていた


みんな しっているのかな……


ゆかちゃんに おしえたい

としくんにも おしえたい


夕日は一つだけれど

山は

たくさん

たくさん

あるってことを─



  ぐい実を食べると


小鳥のように

ぐい実の枝には とまれないけれど

高い空も とべないけれど

ぐい実を食べると

小鳥のきもちが

ちょっぴり わかる


ことしも

ぐい実を食べながら

小鳥になった気分!


わかります?

この気分!?


─いつか

  小鳥と 話してみたい

  わたしのことも

  小鳥のことも

  どっちもどっち

  わかり合いたい─

                注 ぐい実……ぐみの実のこと



  母の声


海が見える

みかん畑にかこまれた小高い丘に

父母の墓はある


墓のまわりには草が生え

白い小さな花が咲き

たがいに ささえ合い

風にゆれていた


一瞬

─草も生きとるんじゃけん

  ひかんでええよ

と 母の声が聞こえ

そのままにして 手を合わせた


気づくと

どこかで小鳥が鳴いて……


雲の流れる空の下

この世の私は

やわらかな早春の風と

みかんの木々の

葉ずれの音に見送られ

細い坂道を下った


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