2020年1月5日日曜日

まえだとしえ『かくれんぼ』


まえだとしえ 『かくれんぼ』

20191225日発行 四季の森社 定価1200円+税

A5判変形 上製本 112ページ 絵 大井さちこ



やさしく温かな気持ちがいっぱいあふれている

まえだとしえさんの詩集は私の心の栄養食です。

岩崎京子(児童文学作家)



まえだとしえ

加賀白山山麓の小集落、東二口(ひがしふたくち)

生まれ。鶴来(つるぎ)高校卒。金沢大学医学部付

属看護学校卒。同付属病院勤務。金沢の詩誌「笛」

同人となる。結婚後、上京。子育ての時期、児童文

学者・岩崎京子先生の文庫に親子でお世話になる。

児童文学者協会の通信講座にて川村たかし先生の指

導を受ける。同人誌「アルゴル」「森」「ひなつぼし」

「木曜童話会」「虹」「少年詩の学校」などに詩、エッ

セイ、童話を発表。詩集『た・か・ら・も・の』(リー

ブル 2007年)。日本児童文学者協会会員。





詩集より



ママの七変化   まえだとしえ



おっかないママ

あかおにのようなママ

ぼくがおいたをしたときのママ



おんなのこのようなママ

ガールフレンドのようなママ

いっしょにドレミのうたをうたうママ



やさしいママ

かんごしさんのようなママ

びょうきのぼくをだっこするママ



おとこのこのようなママ

ジーパンのにあうママ

ぼくとはらっぱであそぶママ



きゅうしょくのおばさんのようなママ

コックさんのようなママ

ごちそうをつくるときのママ



パパにいってらっしゃい というママ

パパにおかえりなさい というママ

パパだけのおくさんのママ



だけど どのママも

みんなみんなぼくのママ

ぼくがおにいちゃんになっても

おとなになっても

ずっと

ずーっと ぼくのママ







さがしもの   まえだとしえ



おふろばで したぎをあらうこと

三さいのとき ははからおそわりました

はんかちーふのほしかた

ようちえんじだい ぱんぱん たたくのよって

ちひろせんせいにおそわりました

せんたくきのつかいかたも

いつのまにか おぼえました

ははのせたけも せんせいのせたけも

とっくにこしたいま

たいがいのことは

ひとりでかいけつできるのに

つかれ

よごれたこころがあらえません



とかいのちいさなそらのした

まふゆのゆうげしきに

ちょっぴりそまった こころをひきずり

こころのあらいかたをさがしながら

あるきつづけています







おおきに ありがとさん   まえだとしえ



―おじいちゃん さむくなってきたね

  はんてん どうぞ

―おお おおきに ありがとさん

えんがわで絵をかいている おじいちゃん

べレー帽が よくにあってる



―おじいちゃん あついお茶 どうぞ

―おおきに ありがとさん

  ほんに あんたは いい子じゃ

おじいちゃんは かぞえきれないほど

おおきに ありがとさん って言ってくれる

おじいちゃんの体の中には いったい

どれだけ おおきに ありがとさんが

入っているのかな?

聞くたびに 心がほっこりしてくる



夏の終わり おなかの手術のあと 突然

天国へ行ってしまった おじいちゃん

かきかけの絵をかかえ えんがわから

一番星に よびかけます

―おじいちゃーん

  いっぱいいっぱい おおきに

  ありがとさん







マムシ   まえだとしえ



草むらで カサッと小さな音がした

一瞬 チコの手にした棒の先が

マムシの頭を きっちり押さえた



夏休みの登校日 家への帰り道

あつい日差しの下

麦わら帽子をかぶったチコの頭の中では

となりのおばさんの言葉が

ぐるぐる まわっている



  (チコちゃんちの おかあちゃん、

   なくならはったおとうちゃんの分まで

   働かはるでなあ

   この暑さの中、あんな細ほそこい体で

   むりのしすぎやが

   まっ マムシ4 4 4 の焼いたのでも食べて

   二、三日 ゆっくりなさると

   じきに ようなりなさると思うが……)



チコの手は 一度だけ見たことのある

次吉おじさんの手さばきをまねて

みごとなスピードで皮をはぎ

まるで 手品師のように

棒切れに桜色のくねくねを巻きつけた



すぐそばの林道の上手では

竹筒の先から岩清水が流れ落ちている

チコは 冷たい水でゴシゴシ手を洗い

顔をザブザブ洗い 口をすすいだ

   (おかあちゃんをよろしくお願いします)

くねくねさんに 頭をさげてたのんだ



その晩 チコの家の大きないろりには

赤あかとした炭火があった

話を聞いた次吉おじさんが自分のマムシと

チコのくねくねさんを並べて焼いている

ミミズにしりごみするチコちゃんが……

  あのかいらしチコちゃんが……

  ようもまあ こんな立派なタイショウ4 4 4 4 4

  しとめたもんやなあ どっちにしても

  おかあちゃん 一気にようなりなさるわ

となりのおばさんの顔が

なみだでぐしゃぐしゃになっている



―ほんにのう チコっちゅう子うは

  思いもかけんことをする子じゃ

チコのおばあちゃんも さっきから

袖で涙をぬぐっている





そのころ

おかあさんも寝床で涙をぬぐっていた

チコは おかあさんの手をにぎったまま

えびの形にまるまって

とっくの昔に ねむりこんでいた

もとの 甘えんぼうにもどって

              *となりのおばさんがタイショウと

               呼んだのは マムシではなくてヘビのこと。

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