まえだとしえ 『天気予報』 第三詩集
2020年1月25日発行 四季の森社 定価1200円+税
A5判変形 上製本 96ページ 絵 まえだとしえ
ISBN978-4-905036-20-3 C0092
母や父、遠い日の友
故郷への限りない思い出を通して
<無償のやさしさ>に出会う詩篇たち
菊永謙(詩人、児童文学評論家)
まえだとしえ
加賀白山山麓の小集落、東二口(ひがしふたくち)
生まれ。鶴来(つるぎ)高校卒。金沢大学医学部付
属看護学校卒。同付属病院勤務。金沢の詩誌「笛」
同人となる。結婚後、上京。子育ての時期、児童文
学者・岩崎京子先生の文庫に親子でお世話になる。
児童文学者協会の通信講座にて川村たかし先生の指
導を受ける。同人誌「アルゴル」「森」「ひなつぼし」
「木曜童話会」「虹」「少年詩の学校」などに詩、エッ
セイ、童話を発表。詩集『た・か・ら・も・の』(リー
ブル 2007年)。日本児童文学者協会会員。
詩集より
水
大きなおおきなふしぎは
山のくぼみから わきでる水のこと
雨が何日もふっていないのに
水はとぎれることなくあふれ
幼いわたしは しゃがんで
ふたつの手のひらですくって
なんども 口にはこんだ
かすかにあまくて おいしい
清らかな水を生む山並みは
遠い遠いふるさと
都会のざわめきと
孤独のよせあつまりの中
さまよう心が
本当の水を求めています
とぎれることのない 深い山並みの
わき水を 求めています
ざくろの花のさくころ
ひとむかしも ふたむかしも
もっともっとむかし
ゆりおばあちゃんのほほが
ふっくらと うすべにいろだったころ
いくどもいくども あめのなかで
みつめたはながありました
ゆりおばあちゃんは いま
ろうじんほーむの なかにわで
あめのなかに ひとりたたずみ
はつこいのひとと おはなしをしています
むすめのころ
きはずかしくて つげられなかったことも
すらすら いえます
少女にもどった ゆりおばあちゃんの目には
つややかなみどりのなかでくっきりとさく
ざくろのはなしかみえません
ゆりおばあちゃんのみみには
はつこいのひとのこえしか きこえません
あめのなか ことしも
朱色のはながさいています
母
心もとなくて 目をとじる
見えない糸を たぐっていくと
はるか向こうに
ほほえんでいる 母がいる
母のうしろは
海のような
土のぬくもりのような
月影のような
ひなたのような―
なに なーんもしんぱいいらんけんねえ
ひとっちゅうもんは 弱いようで強い
ひとそれぞれ 時代時代 一本道を
のぼったりくだったりするもんよ
こころんなかの おくのおくのかすかな
のぞみを こんきよう じぶんのてで
まもりそだてながらな
―はいっ ありがとう! かあさん
私の中の 少女の声が聞こえてきます
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