2022年6月24日金曜日

現代こども詩文庫 4 田代しゅうじ詩集


 現代こども詩文庫 4

 田代しゅうじ詩集

2022年7月15日 発売

企画・編集 菊永 謙 

カバー絵 大井さちこ 

発行所 四季の森社 

ISBN978-4-905036-32-6  C0392

定価 本体1200円 税120 合計1320円

田代しゅうじの既刊詩集などからの選集と創作民話、近年のエッセイを収録。作品論詩人論解説に小林雅子、三谷恵子、菊永 謙。


著者 田代しゅうじ


1937年 鹿児島県薩摩川内市に生れる。

1978年 児童文化の会(井野川潔、早船ちよ)「童

詩童謡研究会」に入会する。

1982年 「少年と海」「少年と猫」の2作品が「子

ども世界」(児童文化の会)童詩童謡賞を受賞する。

1985年 詩集「少年と海」にて第16回埼玉文芸賞

児童文学部門賞を受賞する。

2006年 詩集「野にある神様」てらいんくより出版。

2017年 詩集「ともだちいっぱい」を四季の森社

より出版。第22回三越左千夫少年詩賞を受賞する。

日本児童文学者協会会員、詩誌「みみずく」同人。草

創の会「ざわざわ」会員。茨城県取手市在住。




田代しゅうじ詩集から


 方言


みんな方言でかたろう

ふるさとの人ばっかり

一年に一度のふるさと会

おもいきり方言でかたりもそ

よかが

よかが

こげんうれしこたなか

はんも

おいも

よかがよかが

みんなないでんかたらんけ

よかが

よかが

やまいもをほらんなよか

よかが

よかが

みんなかごしまじゃ

みんなよかひとじゃ

よかが

よかが

他人のわるぐちやいわんほうがよか

他人のこつもいわんことじゃ

よかが

よかが

方言なよか

方言なよか

           ないでん=何でも

           やまいもをほらんな=酒を飲んでくだをまくこと

           いわん=云わないこと




西郷どんがうさっがいきやった


こんばばが、とうぐらいのころじゃった。

ちょうど、といいれも、おわつたころ

外のえんがわに、腰かけて、

おとっちゃんとかたいかた

からいもが、ゆであがつとを

待つちょらいた

「おいどんな、えんがわで、わらぞいを

つくちょった」

西郷どんが、じっと、みちょらいたが

「そげん、ちんかてで、みごちぞいが

 でくんね、おいどんに、いっそくうってくれ、」

西郷どんな、さいふの中らぜにをだしやった

「おいどんな、うれしゅして、ぜんないらんち、ゆうたが、西郷どんが

ふとか手で

とっちょけ、とっちょけち、ゆわいたでもろた、どっさいじゃった」

西郷どんな太か人じゃった

「ばあちゃん、ほんのこで、西郷どんじゃっど、西郷どんのみたと、ほ

んのこて」

「こん白髪ばばが、嘘をいゆもんか

おいどんが、編んだわらぞうりを

踏んで、庵の宇都山に、うさぎがいにいきやった」

それを聞いた、少年は自分で見たように得意になった

明治二二年生まれの少年の祖父を生んだ人

少年のひいばあちゃん

その話を聞いたのは昭和二二年

少年は十歳

ひいばあさんは八二歳か八三歳

西郷どんな太か人じゃった

昔の家は戸口のうつくわれかかった引き戸を開けて

「だいか、おいけ、おったけ」

暗い家の中を、じろりとみまわし

「おいどんな、西郷じゃ、こんからいもをゆでて、くれんけ」

西郷どんな、持って来た袋の中からからいも、どさち、だしやった

からいもを、ゆでてやると

「半分でよか、こんからいもはおいどんと、犬のめしじゃ」

半分はみんなで食べろといって残りの半分を大きな袋にいれて背中にせ

おおうと

「おおきにね、あいがとうございもした」

犬を連れて、庵の宇都山にうさぎがりにのぼって、いきやった

ひいばあさんは

「そげん、えらか人やったち

おいどんなしたんにゃった」

あの高い縁側に、ちょこんと腰かけてからいものゆであがったとをまっ

ちょいやった

こけ、二度ばっかりきやったね

ひいばあさんは、竹の皮で草履をつくっていた

長生きしたひいばあさんの草履をふんであるくと、長生きするちゅう

て、みんな

こうてくれた

草履は一〇足ずつ丸い輪にして、天井につるしてあった

こげな、昔のかぞえかたを教えてくれた いいちく、でえちく、ちくまが、

こんぶ

それ、また、こきゅ、たろう、じいんがのき

これで一〇じゃ

少年は

ひいばあさんが、いつまでもいきていてほしいと思った

「おいげえん、ばあさんな、西郷どんのしっちょらっど」

と、大きな声で自慢のすいごたった

あのばあさんは、今、庵の宇都山のいりぐちにある、ちいんかはかのな

かにねむって、おいやっど。

俗名 田代イロ

そして、あの少年は、今頃

風になって、故郷のやまを

思いきりかけまわっています

きっと


  方言の説明

①うさっがいきやった=うさぎ狩りにきました

②といいれも=とり入れも

③かたいかた=語り合っていた

④からいもが=さつまいもが

⑤ゆであがっと=ゆであがると

⑥わらぞい=わらぞうり

⑦そげん=そんなに

⑧ちんかてで=ちいさなてで

⑨みごちぞいが=みごとなぞうりが

⑩でくんね=できるね

⑪ぜんないらん=お金はいらない

⑫とっちょけ=とっておけ

⑬ゆわいたで=云われたので

⑭どっさいじゃった=たくさんだった

⑮ほんのこて=ほんとうに


2022年5月27日金曜日

現代こども詩文庫3 畑島喜久生詩集

 


現代[s1] こども詩文庫 3

 畑島喜久生詩集

2022年510 日 発売

企画・編集 菊永 謙

カバー絵 大井さちこ

発行所 四季の森社

ISBN978-4-905036-31-9  C0392

定価 本体1200円 税120 合計1320

 

著者 畑島喜久生

1930年長崎県対馬に生まれる。

小学校教師として働く。こども本位の児童詩教育を目指し活動。『現代児童詩』若干、「これからの児童詩教育」など児童詩関連の著作多数。小学校教師定年退職後は白百合女子大、東京保育専門学校等に勤務しながら日本児童文学の編集にも関与。少年詩の一層の発展を目指し、「少年詩の学校」「少年詩の教室」など発刊。「畑島喜久生詩集」など少年詩関連の著作多数。

 

畑島喜久生の既刊4冊の少年詩集などからの選集と近年のエッセイを収録。作品論詩人論解説に内田麟太郎 、中上哲夫、藤川幸之助、須田慎吾、菊永 謙。

 

畑島喜久生詩集から

 

   スズメを信じる

 

かんがえてみてください

人間にとって

いちばん身近な鳥といえば

スズメではないでしょうか

 

周(まわり)中にいっぱいいる

だから忘れている(忘れられている)

 

昔 何十年前かまで

わたしたちの国にも

「大衆(たいしゅう)」と呼ばれている人たちがいました

毎日毎日の暮らしのことしか考えない大勢の人たちが

それが 暮らしが豊かになっていつの間にか消えていた(いった)

そしていま不景気で

自由だけがいっぱいあって

貧乏になるのも自由 自殺するのも自由‥‥‥

 と

それが

─その他大勢

ではなくテンデンバラバラに生きているのです いまのいまは‥‥‥

 

ところで

あの人間にとっての

あるかなきが如くにたくさんいたスズメたちはどうしていますかね

中国から流れてくる大気汚染にも耐えて元気でいられるか─

いるか

いないか

いないか

いるか

わたしはいると思います

人間みたいに「新中間層」になったりはしていないので

「鳥」としての「大衆」の名のままでいると‥‥‥

わたしは そのように

「自然」の中での

「人間」にとって

いちばん身近かであった「鳥」のことを深く信じていますので‥‥‥


 [s1]

2022年3月13日日曜日

清水ひさし詩集 空のピアノ

 

清水ひさし詩集 空のピアノ

2022 3 15 日  第一版第一刷発行

著 者   清水ひさし

 絵    大井さちこ

ISBN978-4-905036-30-2                 C0092

定価1540円(本体1400円 税140円(10%))

 

インスピレーション短詩から恋のせつなさまで

三越左千夫少年詩賞詩人のエンターテイメント詩集!

以下、清水ひさし詩集『空のピアノ』より

 

流れ星

 

夜ごとの 星の婚姻

愛する者への身投げ

 

 

ジョウビタキ

 

ことしもわが家の庭にきて

ケケッ ケケッと

ジョウビタキが笑っている

思いだし笑いをこらえきれないように

 

昨年の秋から 今年の春まで

わが家族のやらかしたあれこれを

庭から見ていて 私たちを見たら

反射的に笑いがこみあげるのだろう

 

彼は 毎年わが家の庭にやってきて

わが家の 泣き笑いの人間喜劇を

ただ見して楽しんでいる

 

立派な人間の一人もいない家の

あほうたちのやらかす一生懸命が

彼には面白おかしいのだろう

 

 

ニガウリのきざみ男の料理10

 

ニガウリは苦い

さつま大長という品種はとりわけ苦い

島津一族の長い圧政の過酷さほどに苦い

 

どんなに苦かろうと まずかろうと

ガリと 口をひん曲げて噛み

食べて死なないものはなんでも食べ

生きぬいてきた薩摩の父祖たち

 

そうして食べつづけているうち

苦みの奥にひそむおいしさを

生きていく力を見つけだした父祖たち

 

ニガウリにささっと湯をかけ きざみ

薩摩の男たちはそれで晩酌する

苦カヒコ良カ味ガシテクッデヤ と

人生でも語るように

 

 

 

むかで

 

二本足歩行の者には

片方の足の列が十九本という奇異

ややこしい三十八進法の歩きかた

それが おれだ

 

赤い触角 黒い胴体 黄色い足

ばらばらの心の色を内に抱え

苦しみ生きる

それが おれだ

 

だれにも似ず

日当たらぬ所で一人生きていく

それが おれだ

 

まちがいの名で百足虫と呼ばれ

世間に外れて生きる

それが おれだ

 

 

表札

 

水俣市××町××番地

××忠男

静子

あかね

かりん

ゆき

 

表札の家族四人の名に

マジックインキで引かれた線は

黒い線香のようでした

 

まもなく 湾に黒い廃液の注ぐ町で

忠男さんも亡くなりました

戦友たちの墓を廻っている途中でした

 

薄い鉄板に白塗装の 昭和のあの表札は

潮風と歳月に錆びていきました

 

 

時計屋さん昭和のお店

 

学校帰り 時計屋さんをのぞくのが好きだった

両膝の先を失ったおじさんが

ルーペをはめ いつも時計の修理をしていた

 

おじさんは クラスの宮崎君のお父さんで

宮崎君の話では 海に落ちた時計でも

スイスの時計でも修理できるとのことだった

 

店中掛けられた時計の それぞれ違った時間は

休み時間のぼくたちのように自由だった

壁の高いところには 一級技能士の額と

広島の原爆の時計の写真が並んでいた

 

両腕の肩まで腕時計をつけたロシア兵が

ダワイダワイと金品を奪っていたことを

お客が おじさんに語っていたことがあった

 

おじさんの店には

修理を頼むお客さんが多かった

店には 古い昭和の時代に狂った時計が

新しい時間を刻む日を待っていた



宮崎

宮崎で不思議な巨木を見たことがある 
その木の名を地元の古老に問うたところ 
なんかの木じゃろうなと平然と答えた  

とろんとろんという町を訪ねたとき 
すぐそこと教えてもらった そこは 
二十キロ程先だった

自販機でコーヒーのボタンを押したところ 
お茶が出てきたのは宮崎でのことである
間違えたのはおまえだと 友は断言した 
おまえは おまえの中の宮崎にいるんだと

そう 私は私の中に宮崎の町を移し 
何かの大きな翼に抱かれ
木の名を知らずに老い
すぐそこと道を教えているのだった

2021年10月20日水曜日

チョコレート 山本純子詩集

 チョコレート 山本純子詩集

2021 年10 月31 日 初版発行

著 者  山本 純子

装幀&イラスト ルイコ

四六判 上製 本文96ページ

ISBN 978-4-905036-29-6 C0092 定価1540円(本体1400円 税140円(10%))

 



ことし初めて見たトンボ とか

赤くなってきたグミの実 とか

ともだちに教えたいこと

いくつもみつけて

向こう岸で会ってから

こんなもの みつけたよ

って

話し合う(作品「湖」より)



著者略歴

山本 純子(やまもと・じゅんこ)

1957 年 石川県生まれ。

2000 年 詩集『豊穣の女神の息子』花神社

2004 年 詩集『あまのがわ』花神社(第55 回H 氏賞)

2007 年 詩集『海の日』花神社

2009 年 句集『カヌー干す』ふらんす堂

2009 年 朗読CD『風と散歩に』

  ミュージカルひろば「星のこども」発行

2014 年 少年詩集『ふふふ』銀の鈴社

2017 年 俳句とエッセイ『山ガール』創風社出版

2018 年 詩集『きつねうどんをたべるとき』ふらんす堂

2019 年 少年詩集『給食当番』四季の森社


詩集から


 チョコレート


石だんがあるから

ジャンケンをする


わたしが つづけて負けて

友だちが どんどん先へ行って

さいしょはグー の声が

どんどん大きくなってしまう


いま勝った分の

チョコレート あげるよー

って いわれて せっかくだから

ミ・ル・ク・チ・ヨ・コ・レ・イ・ト

って 石だんをのぼった



ポスト


ポストのなかの

手紙たち


どちらまで

と言い合って


おや そんな遠くまで

北へ 南へ

それぞれ みんな ちりぢりですね

と言い合って


また だれか落ちてきた

どちらまで

すてきな切手を つけてますね



 あした


あしたって

いま どのへんにいるのかな

夜中を ずっと歩いてくるのかな

まっくらで

石につまずいたりしないかな

木にぶつかったりしないかな

川へころげおちたりしないかな

あしたが ちゃんとやってくるか

心配で

いつものように ねむれないよ


あしたって

遠足が あること

知ってるのかな



 ちびた えんぴつ


ちびた えんぴつを

土に うめて

水を やって

ときどき 大きくなあれ

って 声をかけたら

が 出て

するする のびて

えんぴつの木になる

なんてこと ないかなあ


えんぴつの花が 咲いて

 (きっと 白い花だよ)

えんぴつの実が なって

ちびた えんぴつが

もとの 長いえんぴつを

いっぱい 実らせるんだ


赤えんぴつの

ちびたのを うめたら

秋には

えんぴつの木が

きれいな 赤い葉っぱを

そよがせるだろう




わたしはびわ湖のそばに住んでいます。そのびわ湖、深呼吸する、って聞いたことありますか。ちょっと説明しますと、びわ湖の北部では、冬に表面近くの水が冷え、冷たい水は重いので湖の底に沈みます。すると底の水が押し上げられて、表面近くの水と底の水がひっくり返ることになります。そのことを、全層循環と言います。冷たい水は酸素をたくさん含んでいますので、水の循環は酸素の循環にもなり、それで、全層循環は〝びわ湖の深呼吸〟とも言われています。びわ湖が深呼吸すれば、湖底で生きる生物たちにたっぷり酸素が届くのです。

 わたしの好きな詩句たちも、大げさな言い方かもしれませんが、わたしの心に全層循環を起こすように思います。思い浮かべるだけで、心の底まで酸素が行きわたり、深々と新鮮な空気を吸ったような気分になるのです。

 わたしはわたしの詩を書きながら、ほかのたくさんの詩人たちのすてきな詩句に、これからも出会っていきたいな、と思います。(著者あとがきから)



2021年8月22日日曜日

 


ざわざわ─こども文学の実験 第6号 A5並製 304ページ

2021年8月25日 発行  

編集 草創の会  編集委員会

 発行所 四季の森社

 定価 1320円(本体1200円+10%)

 ISBN978-4-905036-28-9 C0095

 

内容

創作特集

ふすま猫  西村祐見子

杏山    村上ときみ 

末弱記者 森 忠明 

あきらと殿さま 岩田早苗 

西暦21××年ぼくとAI ロボットのめしつかい 藤 真知子 

ハンカチの木 大澤桃代 

持久走大会でビリになる 高橋秀雄 

 

小特集 心ときめく詩・童謡・文学

 あこがれ たかはし けいこ 

 まど・みちおの童謡との思い出 佐野のり子 

 みすゞと私の出逢い 林 瀬那 

 ときめいた詩たちのほとりで 村瀬保子 

 心を支えた詩「希望」やなせたかし 津川みゆき 

 普段着姿の野長瀬正夫さん 吉田定一 

魂と向き合った詩人エミリ・ディキンスンと出会って 小野 浩 

新川和江の「わたしを束ねないで」と「春」 山田よう 

わたしのバーネット『秘密の花園』 わたしのエッツ『もりのなか』 井上良子 

幼年期の童謡は歌と共に 池田もと子 

 

エッセイ―ある夜、いつものように 小泉周二 

笑う詩人たち 内田麟太郎 

AとB どちらの詩が好きですか? いとう ゆうこ 

共に過ごした長い日々のこと 千田ふみ子 

中学時代の図書貸出票を見つけて 廣田稔明 

詩集批評 鮮やかな深みのある詩行たち 菊永 謙 

ことば荘便り 小林雅子

 

詩 童謡 そのほか

 

 

2021年7月15日木曜日

片岡美沙保詩集『ねこのまえあし』

 

ねこのまえあし 発行日 2021年7月31日
ISBN978-4-905036-27-2 C0092 定価1000円(本体909円+10%税) 

著者 詩 片岡美沙保  絵 浜田洋子

お花をつみにゆきました
だれかのかなしみを

猫たちは、野辺のたんぽぽのようにたくましく、
晴れた日にふる雪のようにはかなかった。

待望の詩集

著者 片岡美沙保(かたおかみさほ)
一九七七年 茨城生まれ。
第一詩集『オベリスク』( 茨城文学賞)
第二詩集『月宮記』
茨城県詩人協会会員、日本詩人クラブ会員、「やさしい詩を書く会」会員


片岡美沙保詩集『ねこのまえあし』から


かなしみ

皿に雨が降っている
陽は線をみせている
波紋が散らばり
岸にすわれてゆく
沈むものがあるのだ
残りの日を

きみは泣きぬれて明るいほうへ走りさる

雨が降っている

岸が
雨にけぶる
森が
間遠くひかる

キィ
キィ

夕べの椅子をひく

皿に
雨が降っている
匙がしずんでいる

しらない家の



  (クロのうた)


きみは はなのもとに ねむり
ふるはなびらに みみを うごかす

みみは ひにすかされ うすく みちをひき
はなびらたちは みちを さらされてゆく

ひたいに みしるしのように はなびらはおち
きみは いかいを そまず さまよう

つむりのなかで きみは ひごと わかくなる
はなびらに しずみ しずむにうかび

きみは かすかに あいている
そこからもれでる といき

きみが なくのを むねにきく
きみが なくのを 



  お花をつみに
                
お花をつみにゆきました
ふうちゃんのかなしみをつみたくて
わたしは あさゆう
ふうちゃんのかなしみに似た色の
お花をさがしてあるきました

しろい家の庭のかたすみに 
お花はさいていました
ふかい、ふかいるり色をした花でした

プツッと音をたてて お花をつんだとき
わたしのこころも 
プツッと なるようでした

ふうちゃんに お花をわたしました
ふうちゃんは すこしよろこんだけれど
お花がかわいそうで 
こんどは二人で 
るり色のなみだをうかべたおんなのこを
さがしにゆきました

たくさんの人とすれちがいました
どの人も そのひと色のなみだをためて
いきていました

ある町をとおったとき、
ほそい木のかげに
おんなのこがしゃがんでいます
みると、るり色のなみだをうかべていました
ふうちゃんは おんなのこのなみだを
そっとぬぐうと
おんなのこの サラサラしたかみの耳もとに
お花をかざってあげました

おんなのこはうふふとわらいました
ふうちゃんもうふふとわらいました
お花もきれいにかおっています

お花をつみにゆきました
だれかのかなしみを



  夏の日

祭りの日、お囃子のなか、町を出る。
お盆休みのあいだ、血のつながる人たちと過ごす。二階建てのその家は、昔、麹屋を生業とした。石倉と、広い庭があった。
蝉時雨のなか、氏神様に手を合わせる。蝉が、けやきの木に幾匹もとまり、鳴き声がふりそそぐ。小さなうろのあるサルスベリが紅く咲き、足元には鶏頭がならんでいた。玄関先には、フウセンカズラが風にゆれていた。わたしは内気で挨拶もろくにできない。いつも、気の利いた兄の後ろにかくれた。
毎夏、年の近い横浜の従姉妹たちと遊んだ。姉はよく喋り、妹は無口だった。ドールハウスに人形遊び、それに飽きると、ピアノを弾いた。たどたどしいアラベスクや紡ぎ歌が客間からこぼれた。夜、年上の従兄たちが二階へ上がってゆく。そして、一晩中酒盛りをした。翌日、昼近くなって、従兄たちが降りてくる。遅い朝食を、酔いのさめない顔をしながらかきこんでいる。
わたしは、二階が好きだった。二階からは庭が一望できる。南の窓から、風がふき込み、カーテンが帆のように膨らむ。わたしは、本棚のなかの漫画に熱中した。ナッキーという少女の出てくる漫画だった。夜、手持ち花火をした。線香花火をするころ、わたしたちは夏を終えている。線香花火の赤い玉が、それぞれの夏に落ちてゆく。

ボンボン時計が四つ鳴った。階下から、祖母のいびきが聞こえる。わたしはひとり、階段を降りてゆく。家が、寝静まっている。寝息のなかに、家の声を聞く。毎夏、家の声を聞きに行く。




シルヴィア                                           

しろいひびがあって

いろのぬけた日と
いろのぬけたからだを
細長い目をしたむすめはもっていました

文字はむすめをさっていましたから
かぜのそよぎやうたをたのみにいきていました

むすめはうたをさがしていました

それは
しっているのにわすれてしまっているうたでした

あめがふりました
あめはじょうねつてきでした
むすめはからだをぬらしながら
じぶんからひかれるあめのみちを
細長い目でみつめていました

あめはさってゆきました

よるがきました
よるはおしゃべりでした
よるはだれかのかわりにはなしをするのがすきでした

むすめのうたのことをたずねてみました
よるはくびをかしげて
それはしらない
といいました
かわりにおはなしをひとつしてくれました
むすめがめざめるとよるはもういませんでした


いつのまにかむすめのかみはのびていました
かみがかぜにそよいでみみもとでさわさわとなりました

とおいひびがやってきました
とおい日 むすめはなにをしていたでしょう

そう 少年とあそんだ
むすめとおなじ細長い目をした少年と
あそんだのでした


  とおい とおい むかし
  
  あなたとあそんだ
  
  あなたはわたしにかなしい といった

  わたしたちはそれをうたにしてあそんだ

  わたしたちはそれをかぜにのせた

  わたしにはきこえる

  そう きこえる





2021年5月27日木曜日

現代こども詩文庫 2  内田麟太郎詩集

 現代こども詩文庫 菊永謙責任編集 

第二回配本 現代こども詩文庫 2  内田麟太郎詩集

発行日 2021年5月25日

 ISBN978-4-905036-26-5 C0392 定価1320円(本体1200円+税) 

著者 内田麟太郎 企画・編集 菊永 謙 カバー絵 大井さちこ



 現代こども詩文庫は、子どもの読者から広く大人まで楽しめる詩と詩人の全体像を明らかにし、広く世に問うものである。基本的には詩人の詩・童謡の自選集として児童文学評論家菊永謙が企画、編集し、解説を付したものである。
 すぐれた詩篇の数々、童話、そしてエッセイ・評論等を収録し、さらに詩人について他者からの重要な批評の再録、オリジナルの解説を収載し、詩人の裡に輝く児童文学の姿を浮き彫りにしたい。

著者 内田麟太郎(うちだ りんたろう)
1941年福岡県大牟田市に生まれる。
詩集に『きんぎょのきんぎょ』(理論社)『うみがわらっている』『まぜごはん』『たぬきのたまご』(第四回児童ペン賞大賞)『なまこのぽんぽん』(以上、銀の鈴社)『ぼくたちはなく』(PHP研究所、第15回三越左千夫少年詩賞)『しっぽとおっぽ』(岩崎書店)『あかるい黄粉餅』(石風社)『なまこ饅頭』(無極堂)などがある。
絵本に『おれたちともだち』シリーズ(偕成社)『さかさまライオン』(絵本にっぽん賞、童心社)『がたごとがたごと』(日本絵本賞、童心社)『うそつきのつき』(小学館児童出版文化賞、文溪堂)など多数がある。童話に『ぶたのぶたじろうさん』(クレヨンハウス)『ふしぎの森のヤーヤー』(産経児童出版文化賞、金の星社)など多数。第55回児童文化功労賞受賞。第39回巖谷小波文芸賞受賞。日本児童文学者協会理事長(2016年5月〜2020年5月)。